歌の出処
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「玲瓏 第1号」(1986.01)p.033より
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孔雀炎上 (十五首) 轍 郁摩
千載に残りし火焔(ほむら)風となし渡りの鷹の消え去りゆかむ
麗しき暴力それを盾といふくれなゐの海渡る雁がね
秋風に極楽鳥花束ねきて未生の子らに名づけがたしも
兄は「逢はむ」と父は「頼む」と言ひ残す松の緑も色褪せにける
美に酔へる未明見者の額の傷生きつつ滅ぶ花一千本
創世の智の極園を逃れきてソドムの町に火の降る四月
朝夕に髯剃る男幸(さき)くあれ血痕消えぬ指定S席
鹹水を満たせし甕を奈落とふ間(あひ)埋めがたき天の白鷺
磁気ディスクに納められたる歌一首そを遺言と月明の貸金庫
炎上の樹上の孔雀ふりあふぎせつな燦(きらめ)くミクロの粒子
熱風に封樹枯れたり有らぬ夜の解毒の呪文広まりをれば
壮年の藍薄れしをはにかめりセロリ嚙む宮刑の天使長
群青のまみ耗弱の極みなり美のかたわれを負ひたる者ら
白板の文字をたどれば世徒那之(せつなし)と「梁塵秘抄」吟(うた)はむ我に
憎みつつあすあすあすと世紀末絶唱の鶴身をひきしぼる
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