歌の出処
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「玲瓏0」創刊準備号(1985.10)p.049より
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鳥葬の腑 (十五首) 轍 郁摩
浦島草の花も見ざり前(さき)の世に忘れざりける鵺の一声
辻々に道を訪ひたる死の兆石榴の花の赤落ちぬらむ
鍛金の鍛の一字を欲りゐたり鎚(つち)に写りし青髯の頬(つら)
山独活を噛みし一夜を寝乱れつ青嶺の雲は裏切らざるを
夜を覚めて生きむと思ふ蛍火のうすき匂ひは恥辱のごとし
栄光はつとに望まず柿の花午睡の夢におぼれたかりし
往きゆきてつひぞけものに会はざりき朱夏断腸の宿敵一人
神々と神のあはひの夕闇に鉄砲百合の羨しき五月
愛うすき命のひかりやどしたり封書の糊のまだ乾かざる
吾子あらば「素夜」と名付けむ夢の世に泰山木の蘂そそり立つ
而立過ぎていく年生きむ蠛蠓(まくなぎ)の額(ぬか)にふれつつ近づく予兆
土佐凧の朱の一文字恋ひわたり畦の十字を踏み来たりける
背信の後の愛(かな)しき立葵日嗣の御子は生まれざらまし
たちばなの家紋にすでに謂(いはれ)なく二黒土星の夏果てにけり
青田波いまだ怒りの冷めやらず「鳥葬の腑は真白くあるか」
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