斬馬刀振りまはしをる荒武者の緋縅の緋を孤独と呼べり
死相なき顔こそあはれ姫胡蝶花の咲きつぐしぶとさのごとき彼奴等(きゃつら)
性愛の太き手綱を引き絞り鞭打つ馬のしびるるばかり
告天使(かうてんし)老いし夢など見るものか 午前0時のぬばたまの闇
来たるべき世の露草を思ひをり高くもあらね天の香久山
にくきもの多き夜雨にうたれつつ坂東武者の最期(さいご)を恋へり
ファクシミリ吐きだす紙の長々し愛深かれど噛み合はざらむ
くれなゐの紛争地図は旗めけりそれら地を這ふものに栄光を
花のなき吉野もよけれうつしみの四方(よも)の蝉山暮れむとすらむ
詩を賜ふ魔ぞ麗しき吾(あ)に涙ながるるかぎりまことを告げむ
極彩の言葉の綾に自失せり歌はねばならぬ一世はあるや
かがよへる石榴の赤を告げむとし人なき予後のスペースシャトル
それよりの松風絶えて生き悩む寂しき汝れに男の指環
燃ゆるもの持つ君美(は)しき愛染の首ひとつ差し出し申候
こころざし密かに朱夏を過ぎ逝けり酒場『DEUS』の金飾り文字
存念の紅、赤、朱と蘇る科(とが)なきイエス今宵も死せり
禍を恐れ生きたる悔なきや空蝉の背に息吹き込めり
「襤褸ぞ男の証」と嘯(うそぶ)くをうしろより袈裟懸けの太刀筋
暁にうつらうつらのほととぎす恋の乱心他界を照らす
完璧の天蓋揺らぐ欲望に言葉は我を越えつつあらむ
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