轍 郁摩 抄出 |
旧作より、こころに残る作品を紹介
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1984年(S.59) 第12回 鷹新人賞作品より くれなゐの蟹追ひつめてかなしめり 愛憎や熟柿押したる指の先 烏瓜人殺めては目覚めけり 死にざまをさがしてゐたり臭木の実 白鳥の首を猥らとそしりけり 流氷のとどまりたるはかの嗚咽 冬の沼心の鱗はがれざり 草の絮指に纏はる別れかな わが墓標松露踏むたび近くなる 鯉幟をとこの市の立つごとし 白木蓮や別るる時をはかりあふ 父と聞く蜻蛉のつるむ羽音かな (1991刊) ■句集「わたしがゐてもゐなくても」より 泣きにゆく裏の竹薮伐られたり 椿の実割れて知りたる殺意かな 霾りて墓標のごとく忘らるる しぐるるや肉食したる蒼生忌 恋敵それは上手にレモン切る 更衣亡き人ほどの男ゐず ひとことに男を殺しさみだるる どつちみち生き恥さらす海鼠かな 尋めゆけり黒花咲かすものの種 かひやぐら蛤はいま睦みゐる 散るさくらわたしがゐてもゐなくても 降る雪に顔打たせけり最上川 |
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