■ 鷹2005年5・6月合併号より
安心のおならがひとつ春の雁
今以つて寝巻と言ふやあたたかし
まなざしと目付の違ひ涅槃像
雲に鳥舌の真つ赤な日なりけり
難かしき顔に覗かれ蝌蚪の水
虻数分にこにことわが傍にゐし
木蓮の声なら判る気もすなり
隅田川東風の名所と言ひたしや
墨東に食ふこと稀や蓬餠
片々と血は足りてをり梅真白
しやぼん玉大阪に市が幾つある
地の底の宴はをはり牡丹の芽
とろとろと田螺の水や鐘が降る
交む意を押し立てやまず大田螺
一日は次から次や三鬼の忌
柳絮とぶ言と事とのあはひかな
月細し隣近所の春のこゑ
無季
死ぬ朝は野にあかがねの鐘鳴らむ
億万年声は出さねど春の土
われのゐぬ所ところへ地虫出づ
草川の水の音頭も春祭
■ 鷹2005年4月号より
野道からぬかるみが消え小正月
水の如く数字を流し初仕事
国寒し読めぬ書けぬと今更に
薄氷の居ながらにして消えにけり
ゐ
諸鳥は寝をたくはへて春隣
涅槃図の雲硬しとも柔しとも
涅槃西風記憶の軸はまだ確か
東京の非情身に付け卒業す
養生は図に乗らぬこと春の草
春夕好きな言葉を呼びあつめ
着尽くさぬ衣服の数や万愚節
天行のすこやかならず水草生ふ
■ 鷹2005年3月号より
ふさ
初に相応ふ白川漢字暦かな
近々と鼓初の場に居たし
初みくじ結ひし無数の指想ふ
カツサンド見れば食べたし福豆も
凍つまじと目薬注しぬ凍てにけり
凍鶴が動き四五人うごきけり
いささかは寒波迎ふるこころあり
文藝に修羅無くなりぬみやこ鳥
冬の蠅あるとき翔べり居るなと思ふ
干足袋のへたと辞儀せし如くなり
一月尽風薮に入る荒男なし
蜿蜒と道端はあり涅槃西風
■ 鷹2005年2月号より
日月は冬至へ進み箸茶碗
正午なり時計も我も冬蜘蛛も
波郷の忌過ぎたる溲瓶用ゐけり
うちそと
わが頭内外淡し冬椿
狂ひ花くるひ尽きたり多摩日和
眼を張れば甲斐の山見ゆ年用意
枯菊を焚く入念の燻りやう
人参は丈をあきらめ色に出づ
年暮るる鴨のでんぐり返しかな
風神の出雲帰りの荒一夜
夕刊の寒さ六林男を逝かしめき
冬牡丹桂信子をここで待つ
■ 鷹2005年1月号より
あ
種採の嗟々々零してしまひけり
胡麻袋なれば胡麻入れ落着きぬ
水晶をもはや産まざる山粧ふ
神在の顔おのづから出雲びと
大山や枯は怠惰の色ならず
木枯のひつたくり雲火の用心
連れ合うて来て木枯は個々の声
炉も廃れ天狗話も継ぎ手なし
かしづ
狐火の傅くならば彼岸まで
何となく奇数恃みや年の暮
あやか
基督に肖る気なき聖樹かな
日本語半端英語カタコト成人す
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