胸奥の砂上樓閣・水中都市ことばこそそのそこひも知らね 塚本邦雄
塚本邦雄(1920.08.07 – 2005.06.09 )の本は、特装版を除いて粗方持っているのだが、彼の秘書代わりを務めていた書肆季節社の政田岑生氏のご逝去後は、署名本の入手が難しくなった。
そのため、この歌集を古書店で購入できたのは、十年後であった。
書名:第24歌集『約翰傳僞書』(ヨハネでんぎしよ)
A5判、短歌研究社発行、定価:3,534円(税別)
印刷発行:2001年3月5日
見返しの遊び紙に、塚本邦雄の毛筆歌一首と落款
次の半透明の遊び紙に、勢いのある毛筆署名
そこひ(底翳、内障)とは、
眼の虹彩(こうさい)に異常がないのに、視力障害(くもり)が生ずる眼病(白内障・緑内障・黒内障など)の俗称である。
今日は、四月一日。エイプリルフール。万愚節。
午前中には、少し悪気のない嘘を言っても許されると言われている。
塚本が、処女句集『水葬物語』から夢見た韻律の楼閣は、この最終歌集『約翰傳僞書』においても、なお辿り着けなかった永遠の高みの彼方に、今も聳え建っているのだろうか。
この一首を思い出すと、天上からも水底からも鐘(カリヨン)の音が響き渡って来る。
