男も汚れてはならず

 

 

 

桔梗や男に下野の処世あり  大石悦子

「きちかうや」の上五だけで、織田信長を滅ぼした本能寺の変の「桔梗紋(明智光秀)」が思い出される。

潔い男なら「下野」もするが、今時はそんな美学さえ通じない。勝てば官軍、正しくても負ければ歴史の泡と消えるばかり・・・いや、正しいという判断など誰にできよう。あるのはただただ自分の良心に従うのみ。

大石悦子の師事した石田波郷には「桔梗や男も汚れてはならず」の名句がある。

作者も常々、桔梗の句を作りたいと考えていたに違いない。俳句の子弟相聞とは、このように受け継がれていくのかと、実に羨ましい限りである。

句集「百花」より