美しい瞳は多くを語る

Marco2014a

たった一枚の写真から、伝わるものがある。

右額にあてたガーゼ。何かを見据えるようなまなざし。結んだ肌荒れの唇。黒く強い眉。それほど高くはないが、輪郭のしっかりした鼻筋。少し汚れて浅黒いが、ピンクの残る顔色。ヘンプ混じりのコットンで織ったような、髪と上半身を覆う広いスカーフ、ヒジャブ。少し覗く前髪は黒色。

緑のテントの前で、カメラマンがそっと撮ったに違いない。瞳はカメラを視ていない。たった一人。彼女は悲しみを口にするのだろうか。乾いた瞳は、涙を流すのだろうか。

幾夜経て後か忘れむ散りぬべき野べの秋萩みがく月夜を

              清原深養父(きよはらの ふかやぶ)

もうすぐ8月7日、立秋。『後撰和歌集』よりの一首。

この恋の心を、幾夜寝て過ごした後か忘れることができるだろう・・・されど、「忘れむ」と言いながらも、反対にその忘れがたさを思わせるのは言葉の綾。歌では恋とも言わず、散るのは秋萩としか言っていない。

それでも、この一首からは、散り際の萩の匂いのような、別れ際のエロチックな匂いや、秋萩にむすぶ夜露(涙)、その露をいっそう輝かせる清涼な月光を感じさせるあたりが深養父の持ち味。

生年不明、平安前期の歌人なれど、清少納言の祖父か曾祖父ではないかとの噂もある。『古今和歌集』にも入集している。

歌に残せる思いならまだ救われよう。心の傷を一生涯、誰にも伝えられずその胸奥に仕舞い込むことのないように。少女の瞳に明るい光が戻り、その唇から再び笑い声が聞こえることを望まずにはいられない。


参考:

AFP PHOTO / MARCO ,  July 30, 2014.