ふと動くモノが視野に入る。何だろうと川面を凝視すれば、ぽっかりと浮き上がってきた一匹の亀だった。それほど大きくない。全長20センチくらい。
水面から顔を出し、優雅に?、いや器用に四本の手足をそれぞれ別に動かしている。平泳ぎといった有様では無かった。尻尾は?と探してみれば、やや下向きに、細黒いのが確かにある。亀は、数回呼吸して満足したのか、また下手の方へ潜って行った。
そうかと見れば、今度は、川面に沿って、二匹のムギワラトンボがドッキングした姿で、時々水面に尾先をつけ、産卵?するかのように飛んでいた。こんなに水量の多いところに産卵しても、すぐ流されてしまいそうで心配だが、卵は川底へと沈んで行くのだろうか?
川には70センチくらいの真鯉の群れもいる。餌を求めてなのか、人の足音を聞きつけると10匹、20匹、30匹と集まってくる。しかし彼らもゲンキンなモノで、餌が貰えそうも無いと分かると、それ以上には集まって来ない。無理をせずとも、川中にも、案外豊富な餌が有るに違いない。
また一匹。先刻とは異なる20センチほどの亀が浮かんで来た。甲羅の縁がやや緑色で、誰かが川に放したミドリガメかもしれない。外来種の亀が入ってくると、生態系も変わって来るように思えるが、元々、我々が護岸工事でコンクリートばかりの川にしてしまったのだから、元の自然がどの様なモノだったのかさえ分から無くなっている。
大きなオニヤンマが飛んで行った。鮮やかな透明感のある翠、草緑の複眼には、真夏の熱さを物ともせぬ清涼感があった。そして、虎のパンツでは無いが、黄色と黒のコントラストある腹部も、王者の威厳を感じさせた。彼らは、遥か恐竜時代、いやそれ以前から、空を飛んでいたはずである。しかし、体長数メートルもあるような巨大トンボが居たとしたら、人間など絶好のエサにされていたのではないかと、遺伝子レベルの恐れが、一瞬脳裏をかすめていった。