1979年作の「海からの来訪」だって、F30号

arimoto2014n

有元利夫が亡くなったのは、1985年2月24日のこと。享年38歳。

生きている間に会ったことも無く、全く閼伽の他人なのだが、画集を一冊買ってから、ながい永い付き合いの叔父さんのようにも思われる。

画集で見るだけで好きになった絵に、後々、巡回展や美術館で巡り逢い、やはり間違っていなかっと安心したり、ちょっとガッカリしたり、様々なのではあるが、有元の作品の場合は、まず、満足できる。

代表作の「花降る日」は、F50号。日展などの大きな絵ばかり並んでいる会場に圧倒されていると、「やっぱりこれくらいでいいよね!」と、思ってしまう。

1979年作の「海からの来訪」だって、F30号。近づいたり遠ざかったり、何時間でも見ていられるような、そして、一番大事なことなのだが、何度でも見てみたいような、そんな気にさせてくれる作品だった。

かつて、ある工芸作家の個展会場で、素敵なリコーダー演奏曲が流れていて、欲しいと思って尋ねてみたら、有元利夫が自分の演奏を録音したテープを、妻の容子さんからダビングしてもらったとのことだった。

バロックのゆるやかな日常が、おだやかに揺蕩うような、心に沁みる演奏だった。