歌の出処
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「玲瓏」二十一号(1991.10)より
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夏風渡る 轍 郁摩
欲りしものなべて手に入れその後の真裸のかみ何に恋ひせむ
紅あぢさゐ運ぶヴェニスの父と子の声似るゆゑに戦ひやまず
ボッティチェッリ『春』の前にて空腹と疲労うつたへ名画あやふし
神は不在かヴェッキオ橋珊瑚店石階の奥鎚音もるる
アッシジの天の剥落仰ぎゐてうつつ白緑「鳥にしあらば」
抱擁の鼓動におもひいたるとき恋とは死とは青春なりき
在らざればあらざるままに過ぎゆくを紅蓮の沼に夏風渡る
海神の白き彫像そそりたち滅びの後を唄ふ鯨よ
一足先に海芋買ひしめたるきやつが愛人とはいかなる未来ぞ
美しき戦(いくさ)も一世 靉靆の太刀なきわれら死後がおそろし
忘られて 愛のなごりのまなざしを鰐飼ふをとめ虚空に放つ
飽食にこころの飢を満たしつつ汝が病むためのくれなゐの酒
一人の師が昏々と眠り続け合歓の谷行くバス転落す
ガラス炉の底抜け落ちて一日を青水無月の国を愛せむ
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